動画のインサートとは何か。簡単に言えばインサートとは、インタビューのカットに別なカットを差し込む手法のことです。
例えば導入事例や社員紹介など、インタビュー主体の動画で多用されます。
一方で、クライアントの担当者から撮影スケジュール表(香盤表)に記入された「インサート撮影」に対して、「時間を圧縮できませんか?」とか「こんなに必要ですか?」などご意見をもらうこともあります。
取材先や出演者への迷惑を考えて「できればインサート撮影は避けたい、減らしたい」と思われているようです。
結論から言うと、「インサートカット」は動画の質を高める重要な要素です。特に狙いを定めて撮影したインサートは、インタビュー動画の訴求力を格段に高めます。
この稿では導入事例動画を想定しながら、クライアントの担当者にこそ知っていただきたい「インサート」の意味と、効果的・効率的に撮影・編集をするツボをご教授します。
目次
動画における「インサートカット」への誤解を解く
インタビュー動画における「インサート」とは、話者(インタビュイー)のコメントする表情の画像に、別撮りしたインタビュー以外のカットを重ねるという基本的な映像編集の手法です。
しかし「インサート」は、数々の誤解を受けています。
それゆえに広告会社や採用広報会社の方にさえも、「とりあえずインタビュイーのデスクワークを撮影しましょう」と言われることもあります。
でもその発想では、確実にもったいない動画になってしまいます。
実は「インサート」はもっと意義深いものなのです。
まず、インサートに対する典型的な2つの誤解を解くところからお話を進めましょう。
誤解①インサートは編集点を隠すもの
誤解の最たるものが「インサートはコメントの編集点を隠すもの」という考え方です。
例えばネットで「動画 インサート」と検索すると、「インタビューを割愛編集すると映像がジャンプして見えるから、インサートでつなぎ目を隠す」とした記事に出会います。
でも、その発想だと「とりあえず話者のデスクワーク」という香盤表になりがちです。
インタビューは趣旨に応じて編集されることがほとんどです。
従って、ひとつの文脈を組み立てる場合に、切り取ったコメントを組み合わせることになるわけです。
そのコメントの編集点にインサートカットを重ねるのは一般的な手法です。
ただし、「隠す」という発想ではなく、もっと積極的にインサートを捉え、「コメントを生かし、話者やテーマを魅力的に描き出すためにカットを差し込む」という考え方をとるべきです。
そのためにはシーンとして成立し、きちんと「意味のある見出し」の付くインサートを制作会社に求めましょう。
つまり「とりあえずデスクワーク」ではない、計算したインサートカットを撮影するのです。
例えば導入事例動画なら、紹介する商品・サービスやテーマ、取材先についての事前研究がしっかりできれば、ある程度のインサート項目を想定することは可能です。
誤解②インサートはコメントを理解しやすくするもの
「コメントを理解しやすくするためにインサートカットを差し込む」という説明もよく目にします。
これはインサートの一側面を捉えています。ただ、後工程での工夫と捉えるのは誤解です。
例えば編集時に、「チャートでコメントを補足し、その解をチャート上で展開する」というのが代表例ですが、まるで準備不足のインタビューを誤魔化すような、おざなりな印象を抱いてしまうインサートも結構目にします。
チャートなどを使うのなら、インタビュー前の構成段階で想定し、ラフデザインを起こした上で計算してコメントを引き出したいですし、チャートではなく実写映像で表現する方が理解しやすく、同時に力のある動画にできることも多々あります。
こちらもカギは、「事前に想定できるか」です。
効果的なインサートカットを効率的に撮影するために
誤解を解いた上で、動画の質を高めるインサートカット(Bロールと呼ばれることもあります)を制作会社側に確保してもらうために、クライアントの担当者としてどう対応すればよいのでしょうか。
その方法を3つのポイントでまとめました。
下調べしてプランできるかが発注先選定のポイント
前述のとおり、導入事例で紹介する製品・サービスやテーマについて一定の知識が制作会社やスタッフ側であれば、撮影できる(あるいは撮影したい)インサートカットは見えてくるはずです。
また取材先企業の情報も、ネットである程度は入手できます。
セールス担当者が持つお客様(取材先)の情報を共有する仕組みを作れば、オリジナルな情報も加味できて効果的に準備ができます。
その上で、想定のインサート項目をリスト化し、それをもとに取材先と事前に擦り合わせができれば、想定を超えた項目やエピソードが発見できるでしょう。
この事前準備が、訴求力の高い動画にするためのポイントです。
それができる制作会社か、積極的に取り組むスタッフかどうかを見極めることが、一番重要かもしれません。
情報は可能な限り制作会社に与える
クライアント側の担当者としては、可能な限り事前に情報を制作スタッフに渡してほしいと思います。
理想は取材先に対してのシナリオハンティングの機会を設けることですが、そこまでお客様である取材先に負荷をお願いするのは、現実的には難しいことが多いでしょう。
その場合も、例えばセールス担当と制作スタッフとの間でオンラインミーティングする機会を設けるだけで、インサートの項目は豊かになり、撮影の効率も全く違ってきます。
同時に、意味のない撮影項目(例えば、「とりあえず受付を撮っておく」など)を香盤表から削ることで撮影時間も圧縮できます。
「質の高い動画は取材先にとっても価値がある」という前提で依頼する
繰り返しますが、お客様である取材先に過重な負荷をかけるのは避けたいという思いはよくわかります。
私たち制作スタッフも、撮影現場でお客様に多くのお願いをするのは胸が痛みます。
しかしながら事例動画なら、取材を受けてくれたお客様にあと一歩のお願いを躊躇するのは本当にもったいない。
なぜなら、それが訴求力を格段にアップさせることを、私たちは経験的に実感しているからです。
だから、取材先に依頼する際に意識するのは、「質の高い動画は取材先にとっても価値を生む」ということです。
スタッフとしては謙虚であるべきですが、「訴求力の高い導入事例動画は取材先にとってのブランドプロモーションにもなり得る」と自信を持ってお伝えしたいと思うのです。
インサートカットを生かすのは編集技術
ここまでお読みいただければ、インサートがインタビューコメントの編集点を隠すため
のものでも、後付けで補足するためのものでもないことはお分かりいただけるでしょう。
それでは最後に、インサートを活かした質の高い動画を制作する最終工程である編集に、クライアントのお立場でどう臨めばよいのかを解説しましょう。
エフェクト(映像効果)は適量で生きてくる
編集効果でテンポ感を出した動画が流行した時期があります。画面分割でデザインし目先を変えるなどの手法が主流でした。
最近も、Adobe社のAfter Effectsというソフトを駆使し、例えばカットのスピードを変えたり、レンズフレアという光を入れたりした「カッコいい動画」は結構目にします。
インサートカットを十分に確保できなかった際に、編集効果で対処することは今でもあります。
ただ、エフェクトを施すことを要求し過ぎないでください。エフェクトは、まさに効果的に使わないとガチャガチャした安っぽい動画になってしまいます。
意味のあるインサートシーンと組み合わせ、アクセントとして使ってこそ動画エフェクトは生きてきます。
そのために、ある程度のセンスを持ったディレクターに編集を託すことができればベストです。
編集は仕上がる前段階でのチェックを
インサートカットを加えた動画は、編集が仕上がる前の仮編集の段階でチェックしましょう。
多くの制作会社は「仮編集試写」の機会を設けると思いますが、効果を加え作り込んでしまった段階では、変更に時間も手間もかかるので要注意です。
そして仮編集版を試写する際は、クライアント担当者のお立場で細かくチェックするのはもちろんですが、同時に視聴者の立場にも立って、大掴みに視聴してみてください。
意味がきちんと読み取れ、同時にエモーショナルな要素も感じられれば、その動画は多くの視聴者を魅了するはずです。
まとめ
導入事例に限らず、全てのインタビュー動画は編集構成されることが前提です。
だからこそ、視聴者の理解を促し訴求力をもって迫る動画にするために、構成を組み立てる大切な材料である「インサートカット」に注目してください。
インサート撮影の項目は、下調べをすればある程度リスト化できます。その上で、制作側と情報を共有できれば、もっと効率的に、効果を生むカットが撮影できます。
発注するクライアントの立場でも、良質なインサートを確保する意識で撮影・制作に臨んでください。取材先のお客様にも喜んでいただける動画制作が実現できるはずです。